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創造と迷走の日々。

06.17.17:15

鵺(和訳)

7月2日
変わらずの猛暑。
今日も雨が降らない。空も空気も畑もカラッカラに渇いてクソ暑いばかりだ。
それに比べて、女房は日に日に湿っぽくじっとりした目で俺を見やがる。
分かってる、今年はもう駄目だ。
畑の作物は諦めよう。
俺は、明日にでも列車で町へ発つ。
出稼ぎするしかない。女房子供にひもじい思いをさせるわけにはいかないからな。

7月4日
やっちまった!
仕事が見つからないイライラで俺はどうかしてたんだ!!
チンピラに担がれて参加したポーカーでありったけの金を巻き上げられた。
ああ……スッカラカンの一文無しだ。
ホットドッグ一つ買うメシ代も、町で仕事を見つけるために必要な金も無くなっちまった……。

7月5日
町ってのは暑い。
空腹のせいで、寝ころんで暑さを凌ぐ。
人通りの無いチャイナタウンの裏路地でそうしていたら、昼過ぎだっただろうか、ひょっこり現れた一人のじいさんが冷たいコークを恵んでくれた。
俺がよっぽどまいって見えたのだろう。親切なじいさんは俺を家に招き、メシを食わせてくれ、シャワーにビールまで……
おお神よ!
いや、じいさんよ!!
あんたは天使のような人だ!今は、願っても祈っても雨を降らせてくれない神様なんかより、あんたみたいな親切な人が何よりありがたい!!
じいさんの家は小汚い…いや年季の入った古道具屋だった。
俺を一晩泊めてくれるらしい。じいさんの親切を無駄にしないためにも、明日から真面目に仕事を見つけよう。今度こそ。
7月6日
朝、仕事探しに出かけようとしたら、じいさんに呼び止められ店の奥へと案内された。お礼をしたいと言う。
昨夜リウマチが痛むと言うのでじいさんをマッサージしてやったのだが、たくさん親切にしてもらっているのだ、そんなのはお安いご用だった。
なのにじいさんは
「お礼のプレゼントだ」
と言って、店の金庫にしまわれていた大きな瓶を取り出し、俺に差し出した。
瓶には何か一枚紙が貼りつけられていて、まじないだという。
瓶の中を見ると、見たこともない動物が液体に浸かっている。ガキの頃学校の理科室で見たような、標本だ。
じいさんはこれを
「昔、日本から輸入された、伝説の生き物だ」
と言った。
何でも……日本人には人魚やドラゴンの死体を保存して崇め、雨や治水を願う習慣があるらしい。
この瓶の中にあるのも、雲を呼び寄せる妖精の死体だという。

俺は思った。
もしもじいさんの言う事が本当なら、俺の畑に雲を呼べる。
雲が集まれば雨が降る!
驚きと興奮はこれだけじゃなかった。
家族や畑の事を口にした俺を見て、じいさんは瓶の横に1000ドルの束を並べ、こう言ったのだ。
「妖精を君にやろう。この金で早く家へ帰帰り、畑と家族を大事にしてやりなさい」
ああ!
何ていい人なんだ!!
帰るぞ……明日一番の列車で俺は家に帰る。
ドナ!ミーシャ!アレックス!待っていてくれよ、すぐお前達を抱きしめに帰るからな!!
これを書きながらも興奮していて、困った事に全然眠くならないぜ!

7月8日
信じられない……いや、すがる思いで信じていたのだが、こんな事ってあるのか!?
家に帰った俺はじいさんの言いつけ通り、瓶に貼られたまじないの紙を剥がした。
すると半日経って夕方日の沈む頃、東の空から黒雲がわき上がり俺の畑に向かって空を流れて来るのが見えたのだ!
この様子なら明日には雨が降る。
不思議な事もあるものだが、とにかくじいさんに感謝したい。
これで畑は安心だ!

7月9日
畜生!何で雨が降らない!
雲がこんなに空を埋め尽くしているっていうのに!

7月10日
雲はその黒さを増してゆく。
しかし未だ一滴の雨も落としてはくれない。
時折、雲の中から、風もないのに空気が吹き抜けるような音が聞こえてくる。
“ヒョーオ、ヒョーオ”と。
あの音は何だ。
残響のように、耳鳴りがする。

7月12日
未だ雨は降らず、俺は耳鳴りが止まない。
雲が空を覆い昼間でも薄暗くて、部屋では明かりをつけている。
耳鳴りと心配とで満足に眠れていない。先程、女房にすすめられてウィスキーを飲んだ。
何だかやっと眠る事が出来そうだ……目が覚める頃、明日こそ、きっと雨は降っているだろう。

7月13日
音が耳から離れない!
眠りについても、夢の中でもあの音を聞くんだ!!
俺は聞いた……夢の中で、あの音は確かに“声”だった。

「返せ」

と……

“落とし子を返せ”

と!

くそっ!
何てこったあのジジイめ!!
あれは雨の恵みをもたらす妖精なんかじゃない!
俺は1000ドルであれを押しつけられたんだ!
あれは、あの標本の動物は、悪魔――――

〈以下、筆跡の乱れにより解読不能〉
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